(1)「知っているけど、行動できない」では意味がない

「消費者教育の推進に関する法律」では、基本理念の一番目に、「消費生活に関する知識を修得し、これを適切な行動に結び付けることができる実践的な能力が育まれることを旨として行わなければならない」を挙げています。つまり「知識としては知っているが、行動できない」ではなく、「知識として知ったからには、消費者として自分だったら何ができるか考え、行動する」という実践的な能力を育成していくことが求められているのです。
(2)消費者教育の指導技法
では、行動に結びつく実践的な能力はどのようにして育まれるのでしょうか?
消費者教育では、以前から、講義形式で一方的に知識を注入するような形式ではなく、「参加型」の指導方法を取り入れることを積極的に推奨してきました。私の手元には、平成8年に消費者教育支援センターから出版された「消費者教育マニュアル(三訂版)」という本があります(残念ながら現在は絶版です)。この本は、アメリカのヘイドン・グリーン博士著「消費者教育A to Z」を参考に、日本の学校教育にあわせて指導技法24種類を紹介しているものです。
表1は、本の中で紹介されている指導技法を抜粋したものです。当時から20年がたちましたが、これらの技法は、消費者教育推進法が求める「実践的能力」の育成にとって、今なお示唆に富むものと思います(当時には普及していなかったWeb活用など新たな項目の追加や、項目の整理をする必要はあるでしょう)。
分類 | 技法名 |
---|---|
学習行動的方法 | グループ活動、ゲーム、実験・実習、シミュレーション、 ディベート、プロジェクト学習、問題解決学習、ロールプレイング |
事例活用的方法 | 雑誌・パンフレットの活用、視聴覚メディアの活用、 消費者関連機関の活用、新聞の活用、パソコンの活用 |
調査活動的方法 | アンケート、ケーススタディ、試買テスト、 自由研究・レポート作成、調査活動 |
教室外活動法 | インタビュー、外部講師の活用(社会人講師)、 見学・教室外活動、地域活動への参加 |
指示的方法 | 掲示・展示、実物提示法 |
(3)アクティブラーニングで消費者市民をめざそう
平成26年11月、次期学習指導要領の改訂に向けて、文部科学省から中央教育審議会に対して「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」が諮問されました。その中で注目されているキーワードが「アクティブラーニング」(教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称)です。

アクティブラーニングでは、「何を教えるか」という知識の質・量だけでなく、「どのように学ぶか」という、学びの質や深まりを重視しています。また、このような学びの成果として「どのような力が身に付いたか」という評価の視点もあわせて重要としています。
消費者教育では、消費者教育体系イメージマップで示された「消費者教育で育むべき能力」があります。ここで示されている実践的能力を育むために、学習者が主体的に学び、内容を深めていく手法として、これまで推奨してきた参加型の指導技法がより一層重要性を増すでしょう。
(4)おわりに
今回は、「消費者教育実践のポイント」を3回にわたってお伝えしてきました。第1回「日々の消費生活を見つめることから始めよう」では、消費者教育実践のエッセンスとして基本的な考え方を、第2回「これまでの教育課題を消費者の視点から振り返ろう」では、学校での消費者教育推進のヒントを、第3回「アクティブラーニングで消費者市民をめざそう」では、その学習方法、指導技法についてお伝えしてきました。
「消費者教育」は生涯にわたって実施されるものですから、誰もが受け手であり、立場を変えれば担い手にもなります。そのため、多くの方に「消費者教育」の存在を知っていただくことがとても重要なことです。
今回のコラムを通じて、「消費者教育」の魅力の一旦をお伝えすることに役立てば幸いです。