(1)身近であることを活かす
私たちが生存するには、「呼吸」が不可欠です。しかし、意識的に「呼吸」をしている人は多くないと思います。それと同じように「消費」も、買い物をするたびに「私は消費者だなぁ」「私はいま買い物をしているなぁ」などとしみじみ感じる人はおらず、日々の生活で当たり前に行っているはずです。
このように、私たちが日々営む消費生活は、誰もが不自由なく行っているという意識に陥りがちで、あえてそれをテーマに学習する必要性を感じづらいかもしれません。しかし、当たり前=誰にとっても身近、という特徴を活かせば、消費生活をテーマにした学習はあらゆる場面で広がる可能性を秘めています。
誰にとっても身近な学習内容なのですから、実践においては、理論的な話や法律の話から始めるのではなく、まずは現実の問題として捉えられるように、実物提示法を用いると効果的です。
実物提示法
商品のパッケージや広告等、実物を教室の中に持ち込んで提示し、これをもとに分析や話し合いを行う手法

たとえばフェアトレードチョコレートとそうでないチョコレートのパッケージを示してどちらを買うか質問したり、同一商品の外国と日本のパッケージを比較して、表示方法の違いを調べたり、複数の広告を提示してその内容に裏側に隠れた意図を評価したり、とさまざまな活用方法があります。興味関心を引くための提示から話し合いの題材まで、工夫次第で効果的に活用できます。
(2)消費生活を批判的(クリティカル)に考える
また、消費生活を題材にする時には、現在の消費生活をありのままに受け入れるのではなく、「どうしてこのような問題が起きるのだろうか?」「この情報は本当だろうか?」「なぜ、こんなに安くこの商品が買えるのだろうか」「なぜ、この商品にはこの材料が入っているのだろうか」等、常に幅広い視野をもって多面的にじっくり考える姿勢を身に付けることが必要です。これを、批判的思考力と言います。
批判的思考力(クリティカルシンキング)
物事を多面的・客観的に捉え、論理的にじっくりと考えること
クリティカルシンキングにおいて、大切なことはなんでも否定することではなく、幅広い視野から多面的に考えることです。その時に、欠かせない視点は、消費者市民社会であることを確認しておきたいと思います。決して、騙されないためだけを目指すのではありません。
消費者市民社会(Consumer Citizenship)
消費者が社会のこと、地球環境のこと、未来のことを考えて行動し、消費を通じて公正で持続可能な社会をめざすこと
消費者教育では知識を身に付け、それを踏まえて行動できる実践的な能力を育むことを目標にしています。そのため、自らの消費生活を振り返ることは、その後の行動につなげていくために不可欠なプロセスなのです。
(3)消費者の責任(役割)を意識しよう!
この批判的思考力を身に付けることの重要性や、消費者市民社会の考え方は、実は1982年に国際的な消費者団体のネットワーク組織である国際消費者機構(CI、当時はIOCU)によって、消費者の権利と対になる形で「消費者の責任」として提唱されています。
消費者の権利
① 生活の基本的なニーズが保障される
② 安全である
③ 知らされる
④ 選ぶ
⑤ 意見を反映される
⑥ 補償を受ける
⑦ 健全な環境の中で働き生活する
消費者の責任(役割)
① 批判的意識を持つ
② 主張し行動する
③ 社会的関心を持ち、他者・弱者への影響を自覚する
④ 消費行動が環境に及ぼす影響を理解する
⑤ 消費者として団結・連帯する
現在、この内容は、中学校や高等学校の家庭科や社会科(公民科)での学習内容になっています。いかに実感をともなう学習にしていくか、が重要なポイントです。また中には、消費者教育として実施してはこなかったけれど、環境教育や食育、国際理解教育などとかかわりがある、ということにお気づきの方があるかもしれません。
消費者市民社会の実現のために、今何をすべきかを自分の頭と心で考え、行動に移していくことができる、そんな消費者を育む取組みを重ねていきましょう。