特集コラム

下澤教授の フェアトレードの現状と展望

第3回 「街の流通店で買えるフェアトレード商品」

原稿:西澤太郎(静岡文化芸術大学 フェアトレード推進サークル・りとるあーす代表)
監修:下澤 嶽(静岡文化芸術大学 教授)

初めまして。私は静岡文化芸術大学のフェアトレード推進サークル・りとるあーす代表の西澤太郎です。今回は、普段私たちがよく利用しているスーパーやショッピングモールがフェアトレード商品をどのように扱っているのか、スーパー大手のイオンのフェアトレード商品と事業担当者の有本さんのインタビューを通して考えてみたいと思います。

ところで皆さんの中で、フェアトレードをご存知の方はどのくらいいるでしょうか。私は正直なところ大学に入ってはじめてフェアトレードという言葉を聞きました。友人や知人に聞いてみても知らない人の方が多く、フェアトレードという言葉を聞いたことはあるものの、実際の中身をよく知らない人も多いのが現状です。おそらく皆さんも私の友人・知人同様、フェアトレードという言葉を知らない、言葉は知っても内容は知らないという人が多いのではないでしょうか。そこで最初にフェアトレードについて少し簡単な説明をしてみたいと思います。
いくつかのフェアトレード団体の定義を要約すると、フェアトレードとは、「発展途上国で作られた作物や製品を適正な価格で継続的に取引することによって、生産者の持続可能な生活向上を支える仕組みである。」といった意味で使われているようです。ここで私が大切だと思う点は、フェアトレードが生み出す関係は、作る人(生産者)も売る人も買う人(消費者)も、それぞれの存在を尊重し合いながら成り立っている点です。私たち消費者は、スーパーやショッピングモールで買い物をするとき、作る人(生産者)のことを考えてモノを買っているでしょうか。実際、私も含めそういったことを考えることを忘れがちです。特に途上国社会の一部の生産現場では、児童労働、低賃金・長時間労働、不当な解雇といった、生産者の厳しい環境が報告されています。このような現状を私たちが買い物をしながら認識し、問題解決を促すことができる手段の1つがフェアトレードなのだと思います。つまり、消費者側が、生産者の立場を意識して行動する世界的な消費者運動なのです。

今回は、日本全国に展開している大手スーパー、イオンのフェアトレードの取り組みについて、事業担当の有本さんにインタビューをさせていただきました。

イオンがフェアトレードに取り組むことになったきっかけと理由を教えてください。

2002年にイオン2(※)を開始し、2004年に一部の商品をフェアトレード商品として開発を進めました。以前からも買い物を通してできる社会貢献活動をしてきました。しかし消費者の関心と声が高まったことをきっかけにフェアトレードにも舵を切ることにしたんです。

※2001年8月21日、ジャスコ株式会社はイオン株式会社に社名を変更されました。この社名変更を契機に、消費者の皆様からの声を聞こうと、「イオン21キャンペーン『夢ある未来』への提案コンテスト」を実施されました。

フェアトレードラベルの制度ができたことが、イオンが参加を促進するきっかけになりましたか?

イオンとしては、どの商品もフェアトレード的な意識でつくり、販売してきたと思っています。しかし本来のフェアトレードに参入していく際に、最初はイオン独自のフェアトレードラベルの作成も考えていました。しかし世界的に認知度の高い第三者認証を通してイオンのフェアトレード商品を知ってもらおうと考えるようになりました。

どのような商品をこれまで手掛けてきましたか。また今後どのような商品開発を考えていますか?
また今後どのような商品開発を考えていますか?

最初はコーヒーから始まりました。その後大学生の声がきっかけとなって、チョコレートの生産販売を開始しました。チョコレートは最後の製造段階を日本国内で行うことで、関税などを抑え、最終価格を抑えることに成功しました。しかし過去にはオレンジジュースで開発を試みましたが、結局味が安定せず断念したこともあります。やはりある程度の安定供給、安全安心が必要不可欠になります。これ以外にもコットン、アクセサリーなどの分野にも参入の可能性はあります

フェアトレード商品を購入する人達の購買層の分析、また感想などは集めていますか?フェアトレードに取り組んだことでイオンの評価はどのように変わりましたか?

アンテナショップと同じで、フェアトレードの商品は女性や若い層の人気が高いです。特に若い人、学生には評判がいいと思います。フェアトレードのチョコレートなどは、大学生の密接な連携があって生まれました。これまでのイオンのフェアトレード商品については、徐々に評価をいただいていると思いますが、まだまだ認知度を上げていきたいです。そのためにも、地域のフェアトレード関係者と協働できることがあればぜひ積極的に取り組んでいきたいと思います。

フェアトレードを店頭で消費者にどのように伝えていますか?
また店頭のスタッフはどのくらいフェアトレードを知っていますか?

この点が問題です。店頭での社員、店員のフェアトレードに関する知識や理解不足が問題かもしれません。近年では、イオンの就職内定者にはフェアトレードのミサンガをつくるなど事前研修の機会に教育を行っていますが、実際は40代50代の社員、店員はフェアトレードを知らない人が多いのが実態です。また消費者へ伝える方法としては、CMなどで宣伝するよりも学生がイベントや様々な活動を通してPRしていくほうが、認知度は上がっています。

地域のフェアトレード関係者とのコラボの可能性はありますか。
地域の市民の草根のフェアトレード活動をどう評価していますか。

熊本では実際に、アンテナショップとイオンで一緒に協働しています。イオンのショッピングモールのスペースを利用して、地域のアンテナショップとの協働に関してはかなり前向きに考えています。また、イオンは小売業なので物売りに特化しています。今後、イオン、アンテナショップ、学生それぞれ役割分担をしていくことが大切だと考えています。

イオンそして有本さんのフェアトレードに対する思いを教えていただけますか?

フェアトレードという言葉がなくなり、生活の中に自然とフェアトレードがある社会が理想的です。若者・学生たちにもっと世界の実態を知ってほしい。そしてイオン、アンテナショップ、学生がそれぞれ役割分担をし、協力し合い、こうした活動を通してフェアトレードが、認知されていくことが大切だと考えています。

いかかでしたか。
最近では、近くの百貨店やスーパーでもフェアトレード商品を見る機会が増えてきました。浜松の成城石井、無印良品、コープなどでも、こうしたフェアトレードラベルのついた商品が見られるようになってきています。
今の日本は、多くの震災や食品問題を経て、どうのように物を買うのか、何を意識して消費するのか、皆が注目している時だと思います。だからこそ生産者から売り手、そして私たち消費者の結びつきが強いフェアトレードが注目される時代になってきていると思います。今後、フェアトレードという言葉が私たちの生活に浸透し、店頭に並んでいる商品の多くが当たり前にフェアトレード商品である時代が来たとき、フェアトレードという言葉を使わなくてもいい時代が来るのではないでしょうか。