地方都市のフェアトレード・ショップは地域での認知度が低い上、支援体制が十分でないため、経営は厳しい状況に置かれている。フェアトレードを愛するショップ・オーナーの熱意と負担の上に、なんとか今の経営が成り立っている状態だ。
こうした状況を改善すべく、2012年9月に静岡県内のフェアトレード・ショップ経営者らが連携し『フェアトレード・コミュニティ しずおか(以下:フェアコミ)』が設立された。「公正な経済活動をもっと身近なものにしたい。」という想いで活動する『フェアコミ』では、静岡県における国内外の経済活動上弱い立場におかれた生産者と公正な取引をしていく経済活動をこれまでより活発にし、全ての人々が平等な立場でより公正な商品取引が行われる社会づくりを目指している。
フェアトレード・ショップの多くは、首都圏にあるフェアトレード輸入会社から仕入れをしている。それらの商品の利益率は低いため、地域のフェアトレード・ショップの継続的な経営が困難な状況がある。フェアコミでは、静岡県におけるフェアトレードの認知度向上・ショップの経営環境改善につながる従来のフェアトレード商品よりも利益率の高い製品をつくりたいという想いから、オリジナル商品としてのフェアトレード・クッキーの開発に取り組んだ。
今回は、『フェアコミ』と『社会福祉法人Mネット東遠 就労継続支援B型事業所 まんま亭』(掛川市)による共同製作により2013年5月に誕生したフェアトレード・クッキーについて、まんま亭小笠原さん(まんま亭職員)にお話を伺ってみた。
1、 静岡で誕生したフェアトレード・クッキーとはどんなものですか?
フェアトレード・クッキーにはまだ明確な定義はありません。私たちのクッキーは、原材料の一部にフェアトレード素材を使用することでフェアトレードにつながるきっかけになるようにと企画したクッキーです。さらに地元静岡にある福祉施設において製造しており、アレルギーを起こす方が多い卵・乳製品を使わず、無農薬栽培による安心で自然な原材料や、静岡県産生姜を使用するなど、消費者に長く愛され、社会へメッセージを伝える商品づくりを心がけました。Meryenda(メリエンダ)という名前は、フィリピンのタガログ語で「おやつ」を意味しています。
『フェアコミ』と『社会福祉法人Mネット東遠 就労継続支援B型事業所 まんま亭』による共同製作により誕生したこだわりと希望のつまった逸品です。フェアトレードの砂糖(フィリピン産)、オリーブオイル(パレスチナ産)を中心に国産の洗双糖(せんそう糖)や菜種油(なたね油)など安心安全な原材料にこだわりました。
種類は、「紅茶」「ライム」「プレーン」「メース・シナモン・カルダモン」「アーモンド」「かちわりコーヒー豆」の全6種類。(2015年1月現在)有機栽培されたセイロン紅茶と自然農法で作られたスパイスはスリランカから、無農薬栽培の「もちきび」や「もちあわ」は岩手県嵯峨農園、ミネラルがたっぷり入ったマスコバド糖はフィリピン産、バターの代わりに使用しているオリーブオイルはパレスチナ産のエクストラバージンオイル、そして、紅茶との相性抜群な生姜は地元静岡産です。
Meryendaは、フェアトレード商品や地元で作られた材料の活用に加え、地域の団体や福祉作業所との共同製作という新たな取り組みの実現によって静岡で誕生した個性的なクッキーなのです。

2、 まんま亭での製造現場はどのような様子ですか?
まんま亭は就労継続支援B型事業所であり、精神・知的障がい者の方々が約30名が利用者契約を結んでいます。Meryenda製造に関して、多いときで5〜6人、少ないときで2〜3人が携わっています。作業の機会が増えたことにより活動の場が増え、さらに賃金が増えました。それによって作業に張りが出てきたように感じています。生産に関わっている利用者からはこのような声も聞かれています。
20代 女性
「自分で作っているクッキーが街の店(フェアコミの店)でも売られているのを見たときは、とても嬉しかった。」
40代 女性
「コーヒー豆がごろごろ入ったクッキーなんて今まで見たことがなかったです。そんな美味しくて,他では作っていないクッキーを作れてうれしいです。」
素材を活かす為に手作業で成形をするなど手間ひまをかけており、大変でもありますが、Meryendaを口にするみなさまの「おいしい!」のために、確実丁寧に作業しています。

3、国内の公正な取引『コミュニティトレード』をどのように感じていますか?
フェアコミはフェアトレードという仕組みを理解し、国内に反映しようとしており、福祉作業所の現場にも通じる想いがあると感じています。そのため、目的を共有して協働で取り組むことが出来ました。今後、一般企業からも理解を得て協働できればもっと可能性が広がるのではと今回の共同製作を通して希望を持てました。
また、多くの福祉作業所は製品の販路があまりなくて、バザーやお祭りでの直接販売が主になっているので、売り上げには限界があります。製造は福祉作業所、販売は他団体と分業にすることにより造ることに集中できるので、品質向上につながりました。これまでの主な販売先は、市役所や医療センターなどへの直接販売で、購買層は会社員や主婦層が大部分を占めていました。それに対して、フェアトレード・ショップの購買層は学生や子育て世代の20〜40代くらいの方もおり、購買層の拡大につながりました。こうした協働の結果、初年度は作業所売上の30%をこのMeryendaが占め、大きな成果となりました。(これまでに約3050個が販売されました。)
4、これからの目標はありますか?
最初、5種類からスタートしたMeryenda。2014年末には「かちわりコーヒー豆」が新発売されました。ゴロゴロと香ばしいコーヒー豆が入った食べ応えのあるクッキーです。さらに、現在も新たなフェアトレード原料を使用した「カカオ」「タマリンド」を考案中です。10種類を目指し、新たな種類を次々と発売していく予定です。
5、このクッキーはどのようなところで販売されていますか?
以下の店舗でお取り扱いいただいています。
・リアルフードあくつ:〒420-0867 静岡県静岡市葵区馬場町91
・Teebom:〒420-0856 静岡県静岡市葵区駿府町1−50
・village:〒436-0222 静岡県掛川市下垂木303-1
・poco:2015年度4月、浜松市へ移転開店予定 問い合わせ先 i.poco39@gmail.com
「発売当初よりも売上が低下している」との声も聞かれ、新商品としての注目が落ち着いたこれからの時期にも、安定した売上が見込めるよう対策を練る必要があると感じました。今よりも多くのお客さまにリピーターとしてこのクッキーをお買い求めいただけるために新フレーバーの発売や販売促進を提案するなどしてきたいと考えています。

6、フェアトレードに関心のある人がフェアコミを通して参加出来る方法や情報はありますか?
フェアコミは、静岡県のフェアトレード・ショップの経営を安定させ、フェアトレードの静岡県の発信源となるべく、日々情報交換を行っています。その活動の一環として、例えばフェアコミの趣旨に賛同いただける方には、委託販売を行っていただくことも可能です。
例えば、
・学園祭で国際協力ブースの出店時にフェアトレード商品を販売してみる…
・職場の仲間とフェアトレード・コーヒーを購入してみる…
・地域の仲間と一緒にマルシェでMeryendaを販売する店を出してみる…
など、様々な場所でお気軽にフェアトレード・ショップを開いてみませんか?
お問い合わせはこちらから。
フェアトレード・コミュニティーしずおか http://mitpha.wix.com/ftcs
Meryendaについてのお問い合わせ・販売を希望する方は以下まで。
・静岡方面 Teebom / TEL:054-254-7117
・浜松方面 poco / e-mail: i.poco39@gmail.com
今回、静岡で誕生したフェアトレード・クッキーには熱い想いと国内外における公正な経済活動の実現への可能性という希望が込められていると感じた。しかし、この新しい取り組みが一般的に認知されていくためにはまだまだ課題が多い。Meryendaのような事例を挙げ、目に触れる機会が増えることが地方都市ではより重要であると感じた。
