静岡にはフェアトレード商品を扱うショップが約50近くあると推定されている。カフェの片隅に数点の商品を並べるだけのショップもあれば、本格的な専門店もある。また、経営が厳しいため、短期間で閉店してしまうショップもある。今日はフェアトレード専門店として精力的に活動を続けているTeebom(テーボム)を訪ねてみる。
新静岡駅から歩いて約5分のところ、葵区駿府町にフェアトレード・ショップTeebomはある。店先に立つ手書きの黒板が目印。
Teebom(テーボム)は、スリランカの言葉で「お茶にしましょう」という意味。
10年間のスリランカ滞在を含め、約20年、主に開発途上といわれる国で暮らしてきた店主 今井奈保子(いまいなほこ)さん。
ふらりと立ち寄りたくなるあたたかな雰囲気の広さ約3坪ほどの店で、とっておきの品とそのストーリーを伝えている。

フェアトレード・ショップTeebomを始めたきっかけを教えてください。
1993年、青年海外協力隊の村落開発普及員としてスリランカへ派遣されました。
その地域では、小作人として農業を仕事とする人々が暮らしており、彼らの食事は、3食カレー。
それも、大盛りのごはんに、ほんのわずかなおかずだけ。
まるで「オレンジ色の唐辛子ごはんのよう」でした。
こうした食事の理由は、彼らに現金収入が少ないためでした。
ごはんは自分のところでつくっているお米、しかし、おかずは市場で買ってこなければない素材です。そして、市場で買い物をするためにはお金が必要なのです。
この時「彼らの現金収入を増やしたい」と感じました。
そして、村落開発普及員として、農家の副業となる、スリランカの女性用民族衣装であるサリーの文化を活かした手仕事づくりを行いました。
スリランカの女性たちの多くは、サリーといっしょに着用するブラウスやアンダースカートを自身に合うように店にオーダーしたり、自分でつくったりしています。
その時に出る端切れを活かして、パッチワークのベッドカバーなどを製作しました。
端切れの整え方や縫い方を6ヶ月の期間をかけて指導し、商品化、商店へ売り歩いては現金収入を得るようにしました。商品は次第に認められ、店頭での販売も順調に進むようになっていきました。
ところが、ある日、これらの商店から取引を打ち切られてしまったのです。
「なぜだろう?」「何か不備があったのだろうか?」
共にパッチワーク製品づくりを進めてきた村の女性が「今井先生、見て」と店内を指しました。
なんと、この店には今井さんたちが取り組んで来たパッチワーク製品をコピーした製品が並んでいたのです。悔しさと疑問が湧きました。
資本に余裕のあるが多い店だからこそ、ミシンなどの機械を大量に導入し、機械生産で同じ物を製作し始めたのでした。
他人のつくった物を真似てはいけないというモラルや法律の整っていない地域では、こうした出来事は起こりやすいとその時わかったのです。これまで、「今ある素材と設備で出来る手仕事で現金収入を」と取り組んで来たパッチワーク製品づくり…様々な思いが駆け巡りましたが、「文句を言うよりも、もっといいものをつくろうよ!」というパッチワーク製品生産者からの声で新たな製品づくりに進みはじめました。
次に取りかかり始めた事業は、キルティング製品づくりでした。
今ある素材や設備で出来る手仕事であること、機械では真似出来ないこと、さらに、スリランカ人のニーズに合った製品づくりを行いました。
その後、2年の任期を終え、一度は帰国するも、就職先の部署移動で再度スリランカに訪れました。
週末などの時間をつかって、これまで関わって来た村々へ足を運んではその後の継続を促しました。
「最近、調子はどう?」
「大丈夫!順調よ」と生産者たちは答えていました。
が、実際のところ、今井さんが去った後、徐々に商店から買い叩きが始まり、支払いもルーズになっていたのでした。
これは、南南問題といわれ、国内の格差によるものでした。
格差や差別は、スリランカの歴史的社会背景が関係しています。
職業カーストで、上位2番目にある農家。
しかし、彼らには現金収入がほとんどなく、学校にも通っていなかったため学歴もない、英語も話せない、また、女性であることが足かせになっていました。
農家に生まれれば農家のカーストに属し、女性に生まれれば女性としての生き方を強いられる…自分たちではどうにも出来ない問題がここにはありました。
特に、女性の人権問題として、今井さんのパッチワーク・キルティング製品づくりに関わった女性たちの中には、夫は戦死し未亡人となってしまった女性や家庭が多くありました。
こうした女性たちは、村のコミュニティから差別されやすく、これにもジレンマを感じました。
こうした様々な経験から、「農民の現金収入を増やしたい」「南南問題など自分たちではどうしようも出来ない問題解決をしたい」「差別がなく、誰もが選択の自由を持つ日本のようになったらいい」という思いから、「末端の労働者の幸せや生活を考えた仕組み」をフェアトレードで実現しようとしたのが、今のショップを始めたきっかけです。
静岡でフェアトレード・ショップをやる上で感じている課題ややりがいを教えてください。
静岡だからというわけではないですが、ショップの経営を続けることは大変です。
日本の地場産業は大量生産・大量消費に切り替わった時に多くが消えました。
フェアトレードも、地場産業、有機農業、環境(エコロジー)ビジネスなど、仕事のモチベーションと目指すところは同じです。
「自身と他者の幸せを願う」こうした想いで活動する方々と手を取り合って取り組んで行くことが必要だと考えています。
その試みのひとつとして、2014年11月22日(土)、静岡市小梳(おぐし)神社にて「あなたの手にする『モノ』が語りだす 想い伝わる フェアコミフェス」の第一回が、地元静岡でフェアトレードやコミュニティトレードの普及活動をしている市民・学生の任意団体によって行われました。
フェアトレード品や地場産品などストーリーのある「モノ」を扱うお店が約20店舗出店し賑わいました。
来場者の中には、県外からお越し下さった方もいらっしゃいました。
こうした取り組みがより認知され、共感が得られることと、手と手を取り合って目指す未来へ進んでゆく連携が深まっていくことが出来たらと思います。
フェアトレード・ショップには、どのような方がお客さまに多いですか?
全体を見ると、女性で30〜50代くらいでお仕事をされている方が多いです。
近所の方が立ち寄ることもありますし、外国人(先進国)の方もいらっしゃいます
「途上国の方はいらっしゃいますか?」
いらっしゃいますが、「私の国の商品を買ってくれ!」と言われたりします。
商品を気に入ってくれたお客さまは、年齢性別問わずリピートをしてくださいます。
例えば、コーヒーのファンは多いですね。
自家焙煎で100g400円という価格で販売しています。
おすすめはペルーのコーヒー。すっきりしていて飲みやすいですよ。
静岡の方は保守的な印象です。新しいものが受け入れられるには時間がかかると思います。Teebomのお客さまには、転勤で静岡にいらっしゃった方も多いですね。そのような方たちにとって、こうした地域の店が居場所になっているんだなあとお店を始めて感じました。

Teebomのこだわり・大切にしていること、これからのTeebomの夢を教えてください。
Teebomには「20年プラン」があります。
今はこの活動を始めて4年5ヶ月目です。(2014年11月末現在)
昨年はよく聞かれた「フェアトレード」という言葉。お客さまの中には「フェアトレードって今、流行っていますよね」という声も聞かれました。
しかし、Teebomが目指しているのは、「ブームではないフェアトレードが当たり前にある社会。」
先進国が優位で途上国はそうじゃないとか、経済的豊かさや社会的地位の認知を国同士でも出来るような、買い物の際、つくり手(末端の生産者)の幸せにつながるといいなあという価値観に気づく人が増えることは、選ぶ自由がある私たちに出来ること。
「選択肢のひとつにフェアトレードも含まれる社会」。
それは特別なことではなく、当たり前なことだと気づく社会。
例えば、スーパーの棚にフェアトレードの紅茶とそうじゃない紅茶が並んでいるとした時、あなたはどちらを選びますか?
このとき、「フェアトレードを選ぶ!」という人が多い社会になるといいですね。
これは勇気がいることだと思います。これまでにないものを受け入れて、慣れない物に対して警戒心を解く必要がありますし、何より自身の心と経済的な豊かさがなければ選択肢を広げる(視野を広げる)余裕が生まれない。
Teebomの大切にしているフェアトレードのストーリーある「モノ」は、こうした社会の実現という夢につながっています。
看板商品とそのストーリーを教えてください。
Teebomの紅茶は、スリランカで暮らしていたときに出会った農家と協力し生産しています。
紅茶生産者が自らお茶の味、香り、水色などを適切に把握することにより、グレードの異なる紅茶をブレンドしたり、スパイスなどと組み合わせたりするオリジナル商品が生まれました。
Teebomで取引をしている茶園では、500件の近隣小農家から毎日茶葉を買い、国や購入者の希望に合わせて、直接輸出をするようになってきました。また、紅茶の市場価格(マーケット)には波が存在しますが、一定の価格を生産者へ支払うようにしています。
彼らとは4年半取引が続いていますが、彼らの生活に余裕が生まれたかといったらまだまだそうではありません。これは大きな課題です。

フェアトレードに関心のある人がTeebomを通して参加出来る方法や情報はありますか?
Teebomの商品を学園祭やイベントなどで委託販売することが出来ます。
関心のある方はお気軽にお問い合わせください。
今回の取材で、フェアトレードとそれを求めるニーズがまだまだ認知・定着していない中で、熱い想いを持ち取り組んでいる今井さんの奮闘が伺えた。
Teebomに行けば、手作りの個性あふれる品々が出迎えてくれる。
また、それぞれをつくった人々の心をも感じることが出来る。
そんな地域の店で普段の買い物を選んで行きたいと感じた。
例えば、毎朝飲むコーヒー・・・大切な人へ贈るプレゼント・・・。フェアトレードのものを選んで買い物することによって、遠い国の誰かの笑顔につながっていることを感じられ、いつもよりあたたかな気持ちになれるのではないだろうか。
フェアトレード・ショップは、生産者の思い、販売者の生き方を発信する場所であるとともに、人と人をつなぎあう場所でもあると感じた。
〒420-0856 静岡県静岡市葵区駿府町1-50
TEL:054-254-7117 FAX:054-254-7117
営業時間10:00-20:00 定休日:火曜日