消費者教育の事例紹介

出前講座の事例

消費者教育から始める防災力講座

目次
1.はじめに
2.東日本大震災と、阪神・淡路大震災について
 (1)東日本大震災について
 (2)阪神・淡路大震災について
 (3)東海地震・南海トラフ巨大地震について
3.地震発生時の備えについて
 (1)地震の際に身を守る姿勢
 (2)身に付けておくとよいもの
 (3)家具の固定について
 (4)木造住宅耐震補強について
 (5)備蓄品について
4.地震発生後のお役立ち情報について
 (1)「り災証明書」の提出について
 (2)消費者被害にも注意
 (3)浜松市の防災アプリについて
 (4)アルミ缶コンロと、ライト
 (5)災害用伝言ダイヤル
5.最後に
平成27年度 災害時に備える消費者教育モデル講座

災害時に備える消費者教育のモデル講座を、多文化共生の視点で下記の通り実施しました。

■参加者: ブラジル銀行関係者等 26人
■実施日: 平成28年3月1日 15:30〜16:30
■会場: クリエート浜松 51会議室
■講師: 河合 康成氏・古川 千秋氏(公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 中部支部 静岡分科会)
■テーマ: 災害に備える消費者教育〜多文化共生の視点から〜
■内容: ○今すぐできること・身に付けておくと役立つこと・非常持出品 等
○備蓄品・ローリングストック法
○大切なものをなくしたら・災害時の消費者被害に注意
○役立ち情報
■時間: 60分
■教材: ハンドブック「防災・減災 復興のためのヒント集」(ポルトガル語版)
1.はじめに

 平成28年3月1日、クリエート浜松で、ブラジル銀行関係者の方々などを対象に、多文化共生の視点から災害時に備える消費者教育モデル講座を実施しました。
 今回は、地震に備えて日頃から必要な準備について、また、地震が起きた際にどのような行動をするのがよいのかについて、公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(通称:NACS)中部支部 静岡分科会の河合 康成氏・古川 千秋氏に解説していただきました。

会場入口サイン セミナー会場(スクリーン)
2.東日本大震災と、阪神・淡路大震災について
(1)東日本大震災について

 「Boa tarde!(ボアタルジ、こんにちはの意)」と河合氏がポルトガル語で挨拶をし、講座はスタート。
 「今日参加して下さっている方々は、日本に長く暮らしていらっしゃると伺っています。みなさんは、東日本大震災を知っていますか?」との問いかけに会場にいた多く人から手が挙がります。
 「5年前に起きたこの地震は、津波が発生するなど、多くの人が被災しました。地殻の変動があり、1年に何mmかずっと動き続けることで、ひずみがたまり、突如、地震が起きるのです。」

 平成23年3月11日に発生した東日本大震災。地震の規模はM9.0、最大震度7。震度は揺れの大きさを示すもので、震度の階級は「7」までしかありません。東日本大震災では、3分20秒以上という長い揺れが続き、大きな被害をもたらしました。このときに、電気や水道などのインフラも止まり、804万戸が停電して、復旧に1週間〜1か月かかり、140万戸が断水し、全国の給水車約210台が対応にあたりました。(水道の復旧期間については、詳しくはわかっていません。)

 東日本大震災は、死者数が1万5891名と甚大な被害をもたらしました。そのうち90%が津波による水死で、中でも、60代以上の高齢者の死者数が半数を占めています。
 「人々は、津波が来るなんて思ってもいなかったのです。突然やってきた津波から逃げられたのは、若い人だけでした。」
 この地震は、世界で4番目の被害規模の地震になりました。世界最大の被害は、1960年に南米で発生したチリ地震。しかし、ブラジルは「地震空白地帯」で、地震が発生したことがないそうです。

(2)阪神・淡路大震災について

 次に、平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災について触れていきます。
 21年前に起きたこの地震は、M7.3、地震継続時間は20秒弱と、地震の規模はそれほど大きくはありませんでしたが、直下型であったために、高速道路が壊れたり、木造家屋が倒壊し、火災が発生するなど、局部的に被害が発生し、拡大しました。
 この地震での死者数は、6434人、人々がまだ寝静まっている早朝の5:46に発生したために、倒れてきた家具や、倒壊した家の下敷きになって亡くなった方が、死者数の80%を占めました。
 この地震では、昭和56年(1981年)に改正された建築基準法の新たな耐震基準で設計された家屋の被害は、比較的少なかったと言います。

(3)東海地震・南海トラフ巨大地震について

 私たちが住む静岡県では、平成25年に策定された「第4次地震被害想定」において、レベル1またはレベル2クラスの巨大地震が今後30年の間に60〜70%の確率で発生するとされています。
 「昔から言われている東海地震は、レベル1で地震動継続時間は1〜2分、震度7、津波の高さ7mほどの地震ですが、レベル2の南海トラフ巨大地震は、本州の半分以上が震源になるような大きな地震です。これらの地震が発生すると、ドミノ倒しのようにいろいろな地震が起こる可能性があるそうです。」

 ここで、参加者から質問がありました。「この予想が当たる確率は、どのくらいなのですか?」
 「当たる確率というのは、難しいですが、比較的高いと言われています。起きるとすると、どちらか一方で、レベル2の南海トラフ巨大地震が発生する可能性は、極めてまれと言われています。しかし、地震のひずみは常に起きており、この辺りでの地震が発生する可能性は、非常に高くなっています。」
 こういった巨大地震が発生すると、広域災害が予想されます。行政・自衛隊の援助を、発生直後に期待することは非常に難しいと思われます。そのために、日頃から災害に備え、家族・地域・仲間とともに災害時に備えることが必要となってきます。

セミナー講師 浜松市北区災害VC連絡会 防災 ・消費 活アドバイザー 河合 康成 セミナー開催状況
3.地震発生時の備えについて
(1)地震の際に身を守る姿勢

 「今、小学校では、地震が発生したときの身の守り方として、テーブルや机の下に隠れるポーズ、体を小さく丸めて身を守るダンゴムシのポースを教えています。たとえば、今、地震が発生したとしたら、目の前にある机の下に隠れることで自分の身を守ってください。この時に重要なのは、机が動いてしまっては意味がないので、両手で机の足を持って支えてくださいね。もしくはダンゴムシのポーズを取ってください。」
 地震では、最初に初期微動があり、その後に大きな揺れがきます。場合によっては、その間に携帯電話へ大きな地震が発生する緊急速報が流れてくる可能性もあるといいます。
 「自宅で地震が起きたらどうする? 外出先で起きたらどうする? 私の場合、どこへ行っても、まず地震が起きたときの可能性を想像し、どのように身を守るかについて考える習慣がついています。」
 どこにいても地震発生の可能性は否定できません。どのように自分の身を守るか、常に考えられるように日頃から心掛けましょう。

(2)身に付けておくとよいもの
セミナー参加者配布物

 ハンドブック「防災・減災 復興のためのヒント集」へ話は移ります。
 いつも身に付けておくものとして、「笛・ミニライト・小銭・テレホンカード・薬・携帯電話」などが挙げられます。なぜ、テレホンカードかというと、地震が来ると、携帯電話の通信は95%は遮断されると言われています。そんなとき、公衆電話なら回線が確保されている可能性が高いため、常にテレホンカードを携帯しておくとよいとされています。

(3)家具の固定について

 次に、家具の固定について、話を進めていきます。今回、セミナー会場になっている浜松市では、家具の固定を推奨し、65歳以上の高齢者の家では、家具固定金具の取付作業を5品まで無料で実施してくれているそうです。(器具代は申請者負担。詳しくはこちら)阪神・淡路大震災では、家具の倒壊により、たくさんの人が亡くなっています。家具を固定する、もしくは家具がないところで寝るというのが非常に重要なことになっています。
 「もう自宅で家具の固定をしているという方、手を挙げていただけますか?」
 会場内からは、数人、手があがります。割合的には、少ないようです。
 「想定されている地震は、立っていられないほどの揺れと言われています。家具は、ぜひ固定しておいてください。」

(4)木造住宅耐震補強について

 セミナーの参加者は、持ち家の方は少なく、多くは賃貸物件等にお住まいのようです。ただ、近い将来、中古物件等を購入して居住する可能性も少なくないことから、木造耐震補強についての説明を加えていきます。例として、昭和51年(1976年)に建てた河合氏自身のご自宅を取り上げます。旧建築基準法を基に建てられた家であるため、昨年、浜松市の木造住宅耐震補強助成事業(詳しくはこちら)を利用し、住宅に筋交を追加したそうです。

 「助成を受けるためには、補強を行う『耐震評価点』を原則1.0以上にする必要があるのですが、我が家の場合、0.39でした。しかし、高齢者同居世帯であったため、補助金55万円を受給し、耐震工事を実施しました。もちろん、55万円だけでは工事はできないのですが、震度7の地震では、家は損傷・倒壊してしまいますので、この助成制度を活用することは効果的です。」
 家が倒壊してしまった場合、学校の体育館などでの避難所生活になります。避難所には、仕切り等もなくプライバシーも確保できないので、長く生活するのは非常に大変で、高齢者の方の中には、ストレスにより亡くなってしまう方もいらっしゃるそうです。

 「ご自宅で犬を飼われている方は、いらっしゃいますか? 実は私も犬を飼っているんですが、室内犬の場合、それこそ食器棚が倒れてきてお皿が割れ、その上を駆け回ったりすると大変危険です。我が家では、食器棚の固定に加え、ガラス飛散防止フィルムも貼っています。扉も開かないように、金具を取り付けています。犬のためではありますが、台所は、我が家の中でも一番、耐震対策を施している場所です。耐震化するための材料は、ホームセンター等で購入できますので、必要に応じて対策をしてくださいね。」
 実際に、河合氏のご自宅の様子、愛犬の写真を見せながら話を進めていくので非常に分かりやすく、参加者たちは自分の場合を想定しながら話を聞いていたようです。

 自分の住む家の耐震状況を把握し、必要な補強工事を行うことも、自分や家族の身を守る上において、非常に重要なことです。浜松市を始め、各市町村でも補助金の助成を行っていますので、必要がある方は、問い合わせてみましょう。

(5)備蓄品について

 地震発生後は、食料品店に長蛇の列ができ、商品がない状態が続きます。 
「浜松は、自衛隊が近くにあるので、震災が起きたらすぐ助けに来てくれるのではと、思っていらっしゃる方も多いかもしれません。しかし、実際に震災が発生すると、日本全国、さまざまなトラブルがあり、すぐ地元へ助けに来てくれるとは限りません。食料の備蓄は、1週間分必要と言われています。過去の震災においては、電気・ガス・水道といったライフラインは、少なくても1週間は停止してしまいます。その間は、自宅や地域にある備蓄品で生活しなければなりません。」

 水は、飲料水だけでも「1人3L×7日×家族の人数分」必要です。例えば、家族2人の場合、42L。6本入りのケースの場合、3.5箱必要になります。河合氏は、スクリーンに、2人分の水と食料の備蓄品量を映し出しました。相当な量があることに、参加者は驚いた様子です。

 これだけの量を、そのまま「災害用備蓄品」として保管するのは、場所も取りますし、賞味期限・消費期限の管理もたいへんです。そこで、「ローリングストック法(回転備蓄)」という手法をとるのがよいと言われています。日常使う食材や、非常用の食料品を消費し、買い足しながら備蓄していく方法です。
 「今、実際にご自宅でこの手法を取られている方、いらっしゃいますか?」
 2人、手が挙がります。
 「浜松市でも、巨大地震が発生し、被災することが想定されています。ぜひみなさんも、ご自宅に1週間分の備蓄を用意することをお勧めします。保存期間の長い缶詰や、備蓄用のおかゆなどを備えておきましょう。ただ、おかゆはどうしても味に飽きてしまうので、ふりかけも一緒に用意しておくといいですね。」
 ただ用意するだけでなく、実際に食べることも想定し、それぞれの家庭環境に応じた食料を用意しておくことが重要です。

4.地震発生後のお役立ち情報について
(1)「り災証明書」の提出について

 自宅が被災してしまったら、まず「り災証明書」をもらうことが必要です。「り災証明書」がないと、いろいろな支援金・補助金をもらうことができません。今回は、実際に浜松市の「り災証明書」を配付し、内容を確認してもらいました。各種補助は、日本人でなくても受けることができます。震災後、避難所でも配布されますし、インターネットからダウンロードすることもできます。
 「こういった書類を出すということを、ぜひ覚えておいてください。」
 災害に伴い、現金や、預金通帳、土地の権利書等の重要書類を紛失してしまうことは珍しくありません。そういった際には、各役所窓口へ相談すれば必要に応じて対策を講じてくれます。
 ここで参加者から質問が出ます。「これは日本語のみの対応ですか?」
 「そうですね…。日本語を書くことができないなどの不便があれば、対応してくれるはずですよ。」
 災害時は、お互いに助け合うことが大切です。日本語ができない、書けないなどという場合は、遠慮なく周囲に頼ってみましょう。

(2)消費者被害にも注意

 震災後は、消費者トラブルも多く発生します。消費者ホットライン「188(いやや)」を覚えておくと便利です。近隣の市町の消費生活相談窓口へつながります。東日本大震災の後、家の修理や引っ越し、募金、ボランティアなどに関するさまざまな消費者トラブルが発生しました。
 「少しでもおかしいなと思ったら、お金を払う前に相談してみましょう。」

(3)浜松市の防災アプリについて

 浜松市では、「浜松市防災アプリ」を配布しています。参加者の中にも、防災アプリを入れている方が2人ほどいらっしゃいました。防災MAP、笛、防災ガイド、懐中電灯、施設リスト等の情報・機能があり、ポルトガル語の緊急情報を見ることもできます。さらに避難所や、危険な場所を知ることができます。

浜松市防災アプリ体験 セミナー開催状況
(4)アルミ缶コンロと、ライト
手作り防災器具作りの実践(コンロ)

 アルミ缶、アルミホイル、ティッシュ、廃油で作るアルミ缶コンロの見本を提示しました。
 「身の回りにあるもので作ることができて、倒れたらすぐ消火するので、比較的安全です。明かり代わりにもなりますし、煮炊きにも使えます」と用途を説明します。
 また、ライトと、水入りペットボトルで作るライトも実演しました。ペンライトの小さな明かりを、水入りペットボトルを使って大きな明かりにすることができることを目の当たりにし、参加者から歓声があがりました。

(5)災害用伝言ダイヤル

 災害時、携帯電話は95%遮断されてしまいます。安否確認等のため、家族や友人と連絡を取りたい時は、災害用伝言ダイヤル「171」を使うと便利なので覚えておきましょう。

5.最後に

 最後に、まとめとして、河合氏が次のように語ってくれました。
 「浜松市の場合、人口80万人に対して、行政・消防・自衛隊・ライフライン企業による応急・復旧活動に当たることができる救援車の数は、たったの29台だそうです。29台でできることは限られています。まずは『自助(じじょ)』として、自分や家族の命を守る準備を自分たちですることが大事です。そして『共助(きょうじょ)』として、近隣・地域・仲間で助け合って、備えることが大事です。」
 地震が来てから対応するのではなく、普段から準備することが大切になってきます。知っていると知らないでは、全く異なります。今回の講座や、ハンドブック「防災・減災 復興のためのヒント集」をぜひ参考にしていただき、日常生活の中での災害時の備えを進めていただくとよいと思います。