消費者教育の事例紹介

出前講座の事例

平成27年度 災害時に備える消費者教育モデル講座

目次
1.消費者教育としての防災教育について
2.平成27年度 消費者教育から始める防災力講座
3.森町立森小学校における講座の様子(総合的な学習の時間「防災出前講座」)
 (1)はじめに
 (2)「防災」の言葉の意味を知ろう
 (3)必要な水の備蓄量について知ろう
 (4)ローリングストック法について知ろう
 (5)家にカセットコンロを用意しておこう
 (6)廃油を使った「アルミ缶コンロ」を作ってみよう
1.消費者教育としての防災 教育について

 平成23年3月に発生した東日本大震災は、社会や人々の意識に大きな影響・変化を与えました。震災発生直後、一部の消費者による買占め等により、生活必需品等が不足するなどの事態が発生しました。また、東京電力福島第一原子力発電所の事故による風評被害や、震災に便乗した義援金詐欺、住宅修理工事等の強引な勧誘等の悪質商法・詐欺など、消費者トラブルも数多く発生しました。
 今後も大きな災害発生の可能性が想定されていることから、非常時こそ自己利益追求のための消費行動をとるのではなく、他者への配慮や、社会的な影響にも関心を持ち、行動することが求められます。
 そのため、災害に備えて適切な消費行動をとれる力を日頃から養うなど、消費者教育の視点で、防災教育を実施することになりました。
 消費者教育を体系的に推進するために作成した「静岡県版イメージマップ」の重点領域の教育目標「災害時に適切な消費行動をとれる力」を育むため、今年度、災害時に備える消費者教育推進事業に取り組んできましたが、今回、この事業の一環として、一般向け、小学生向け、外国人向けの3つの講座を実施しました。

2.平成27年度 消費者教育から始める防災力

 災害時に備える消費者教育のモデル講座の一つとして、下記の内容を実施しました。

■学校: (1)平成28年1月21日 河津町立南小学校(小学生42人)
(2)平成28年2月25日 森町立森小学校(小学生59人)
(3)平成28年3月 1日 川根本町立中央小学校(小学生24人)
■講師: 公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 中部支部 静岡分科会
■テーマ: 発生後の生活を消費者の立場で考える
■内容: ○今すぐできること・身に付けておくと役立つこと・非常持出品 等 ○備蓄品・ローリングストック法 ○役立ち情報とアルミ缶コンロ作り
■時間: 45分授業×2コマ
■教材: ハンドブック「備えて安心“もしも”のときのヒント集」(小学生用)
3.森町立森小学校における講座の様子
(総合的な学習の時間「防災出前講座」)
(1)はじめに
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 平成28年2月25日に、森町立森小学校の4年生2学級(参加者59名)を対象に、総合的な学習の時間を使い、山岡美須永氏(公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 中部支部 静岡分科会)による「防災出前講座」を実施しました。以下、出前講座の様子をご紹介します。

(2)「防災」の意味を知ろう
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 山岡氏が自己紹介を済ませた後、早速、授業をスタート。「『防災』という言葉を知っているかな?」と最初の質問を投げかけました。何人かの児童の手が挙がり、当てられた児童が「災害を防ぐという意味です。」と答えます。
 「その通り。でも、実際に災害を防ぐことはできるかな?」との問いに、「防げない。」との声が上がります。
 「今日は、みんなの命を守ることについてと、守った後、その命をつなぐためにどうすればいいかについてお話をします。」

 「地震のとき、上から物が落ちてくることがあるかと思います。そんなとき、どうする? 実際にやってみて。さあ、地震です!」
 児童たちは、一斉に「ダンゴムシのポーズ(両手で頭を守り、小さく丸まることで揺れや、ガラスなどの落下物から身を守るポーズ)」をとります。中には、頭を守れていない児童も何人か見受けられました。

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 「実際の揺れは、どういうものでしょう。みんなは、東日本大震災や、阪神・淡路大震災を知ってる?」
 ここで山岡氏は、東日本大震災の際の揺れの様子がわかる映像を流しました。
 児童から「こわい…。」「あんなに揺れたんだ…。」と不安そうな声が聞こえてきます。
 「地震は、何の前ぶれもなくやってきます。急な揺れがきたとき、みんなは、今日のようにダンゴムのポーズがとれるかな。」
 児童たちの脇に、屋外などでの学習の際に使用するボードのようなものが置かれています。山岡氏は、それを指差しながら、「このような硬い板があるときは、それで頭を守るといいよ。」とアドバイスをしました。

(2)防災への備えについて考えよう

 森町は、山に囲まれ、海からは遠い地域ですが、山岡氏が「もし海の近くにいた場合はどうする?」と問いかけると、すぐに「高いところへ逃げる」との回答がありました。児童たちは、基本的な防災知識を身につけているようです。

 「みんなの家は、地震への備えはできている?」と、今度は、家庭における備えについて話を向けると、児童たちは、「タンスに耐震金具を施してある。」「カンパンや、水などの非常食を用意している。」「真っ暗な中でも家の中で歩けるように、階段や廊下に蛍光シールを貼ってある。」「地震で倒れたら、外へ出られなくなってしまうから、入り口の近くに物を置いていない。」など、各家庭での防災対策を次々に発表してくれました。さすが、防災意識の高い静岡県。各家庭での防災意識も高いようです。

 「では、避難所がどんなところか知っているかな。」
写真  山岡氏は、学校の体育館、音楽ホールのロビーなどで、避難所生活を送る人々の様子がわかる写真をプロジェクターへ映し出しました。
 「隣にいるのは、知らない人かもしれない。家族を亡くして、昼夜問わず泣いている人がいるかもしれない。避難所は、それぞれの生活スペースに区切りがないの。1日だけだったらいいかもしれないけれど、何日もこんな生活をみんなは送れるかな?」  真剣な面持ちで画面を見入る児童たち。避難所で生活するということを知ることで、地震への備えについて考えるよい機会になったようです。

(3)必要な水の備蓄量について知ろう

 「備蓄用の水は、1週間分で1人どのくらいあったらいいと思う?」
 児童たちは、周りと相談しながら必要な水の量を考えていきます。答えを教えるのは簡単ですが、自分たちで考えて意見を出すということも、消費者教育において非常に重要なアプローチです。
 児童からは「2Lのペットボトルが7本くらいあれば、1週間大丈夫だと思う。」と意見が出ます。
 「答えは、3L×7日=21L。これは、飲料水として必要な量です。水は、飲むだけではなく、食事を作る際にも必要だよ。避難生活をしていると、トイレに行くのが大変だからと言って、水を飲まない人がいます。でも、水分を摂らないということは、体にとってとても悪いことなの。」
 4人家族の場合、3L×7日×4人分=84Lの水の備蓄が必要になります。通常、2Lのペットボトルは6本入りで売られているので、これが7箱必要ということになります。
 給水車が被災地に来るまで、約1週間かかると言われています。すべてを水で摂取する必要はなく、たとえば家に常備しているジュースなどの飲み物も含めてよいそうです。
 「今日、家に帰ったら、おうちの人に『水はこんなに必要なんだよ』ということをぜひ伝えてね。」
 児童たちを通して、保護者への意識喚起も促していきます。

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(4)ローリングストック法について知ろう
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 「みんなの家では、どのような食料品を備蓄している? わざわざ防災用の食品を買ってきているのかな?」
 食料品には、賞味期限が設定されています。ここで、賞味期限の意味を確認します。児童たちは、「賞味期限」と「消費期限」の意味の違いを、まだしっかりとは理解していないようです。
 「賞味期限が過ぎるたびに捨ててしまうともったいないし、ゴミになるよね。買ったら食べる、食べたものは補充する、というように、日常使う食材を消費しながら備蓄していく方法を『ローリングストック法(回転備蓄)』と言います。ぜひおうちの人にも、この方法を教えてあげてね。」
 ここでも、児童たちを通して、保護者への意識喚起を促していきます。

(5)家にカセットコンロを用意しておこう
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 「このあたりも、台風で家が停電したことがあるよね。そのとき、みんなの家ではどうしてた? オール電化の家の人はいる?」
 家がオール電化という児童も10人ほど見受けらます。「ガスが使えなかったので、カセットコンロでご飯を作った。」という声も聞こえます。
 「みんなの家には、カセットコンロは置いてある?」
 カセットコンロのガスボンベ1本で、15Lの水が沸かせるそうです。便利な電気調理器具が多くなり、また、オール電化の家も増えてきました。電気やガスが復旧するまでの間、カセットコンロがあると煮炊きが可能です。
 「でも、ガスボンベを使いきってしまったときはどうする? 今日は、身近なものを使ってコンロを作ります。」

 ここで、1コマ目の授業を終了し、10分間の休憩を取りました。
 休憩の間、「小さなライトでも、水の入ったペットボトルを利用すれば明るく照らせる」といった実例や、廃油を使ったろうそくを展示。多くの児童たちは、とても興味深そうに眺めていました。

(6)廃油を使った「アルミ缶コンロ」を作ってみよう
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■用意するもの:350mlのアルミ缶、アルミホイル、つまようじ、ティッシュペーパー、廃油

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お湯を沸かすためには、この「アルミ缶コンロ」が3つ必要です。今回の授業では、時間の都合上、1つだけを作り、あとは自宅で作れるよう、作り方を図解した資料を配布しました。

 アルミホイルを折ったり、ティッシュペーパーでのこよりを作ったりと、慣れない作業に児童たちは四苦八苦。校長先生をはじめ、担任の先生方のサポートを受けながら、「アルミ缶コンロ」を完成させていきました。
 教壇上には、山岡氏が「アルミ缶コンロ」を3つ用意。児童たちの作業中にコンロに火を点け、鍋でお湯を沸かします。湯気を立てる鍋に児童たちは興味津々。家で作ってみようと話し合っています。

 最後に山岡氏は、「命を守ること、ダンゴムシのポーズを忘れないで。そして、次に大切なことは、守った命をつなぐこと。身の回りのものを使って生活できるよう、日頃から備えておいてね。今日学んだことは、おうちの人や周りのお友達にでもぜひ伝えてね。」と話して、講座を締めくくりました。

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