消費者教育の事例紹介

学校教育現場の取り組み事例

掛川市立原野谷中学校

お話しを伺った人:平野 友紀先生(社会科)

取材日:平成27年2月23日

社会の授業を通して行う消費者教育

限られた授業時間数の中での導入の方法

目次
1.はじめに
2.掛川市立原野谷中学校における消費者教育の取り組み
 (1)中学3年生 公民~消費者の権利と責任について~
 (2)中学1年生 地理~公正な社会のために~
3.まとめ

1.はじめに

新東名森掛川インターチェンジからほど近く、のどかな田園地帯に位置する掛川市立原野谷中学校(以下、原野谷中)。現在は各学年2クラスづつ、社会科の先生は1人だそうです。義務教育の限られた時間数と教員数の中では、「消費者教育」と項目立てて授業を行っていくことは、なかなか難しいのが現状です。その中でも、原野谷中では、授業や生活指導において、要所要所に組み込んでいるといいます。以下、例です。

●給食指導…残飯がなくなるためにどうしたらいいか
●修学旅行…予算書・報告書の作成
●社会…家計の収入・支出、悪質商法、消費者の権利など(いずれも公民)、アフリカのカカオ農園の労働者賃金からフェアトレードの重要性を考える(地理)
●理科…電気の消費について
●数学…携帯電話料金と時間に関するグラフ作成
●英語…リサイクルをテーマとした学習

今回は社会科の授業における取り組みについて伺ってきました。

2.掛川市立原野谷中学校における消費者教育の取り組み

(1)中学3年生 公民~消費者の権利と責任について~

 「買う側と売る側、どちらが強いか」というテーマで、教科書や資料集に沿って3~4時間ほどの時間を割いて、授業を行っています。授業の流れは次の通りです。

1回めの授業~買う側と売る側、どちらが強いかを検討~

 「買う側と売る側、どちらが強いか」という問いに、生徒から意見を出させます。まず2分間、隣の席の人と相談をさせ、挙手してもらい発表。挙手だと、生徒が限定されるので、出席番号順などでランダムに当てることもあるそうです。(指された場合、30秒以内に必ず何か言わなければならないというのが平野先生の授業のルール。)自ら考え、隣と相談し、活発に意見を述べてもらうよう、促す取り組みを行っています。
 生徒からは大抵の場合、「売る側は、広告や甘い言葉で巧みに誘ってくるので、売る側の方が強い」と答えが出てくるそうです。なぜ自分たちがそう考えるか。その考えに至るまでのプロセスも消費者教育において重要な部分です。
 意見が出たところで教科書に戻り、次回の授業で「消費者主権」について勉強していきます。

2回めの授業~消費者の主権とPL法について~

 アメリカのケネディ大統領が提唱した「消費者4つの権利」(安全が確保される権利・選択する権利・知らされる権利・意見が反映される権利)について、説明していきます。(※注1)
 その後、消費者が商品の欠陥で被害を受けた際に、製造業者の責任について規定したPL法(製造物責任法)について説明していきます。
 例えば、「TVを観ていたら突然発火した」というような場合、どのような対処が考えられるかということも生徒から意見を出してもらいます。方法は前回と同じです。このように、商品を製造した売主側に過失がある場合、消費者は消費生活センターへ相談するということを生徒へ伝えていきます。(※注2)

※注1…ケネディ大統領が提唱した消費者4つの権利(安全が確保される権利・選択する権利・知らされる権利・意見が反映される権利)に加え、2004年施行「消費者基本法」では「消費者8つの権利」として前述の4つに加え、消費者教育が受けられる権利・被害の救済を受けられる権利・基本的な需要が満たされる権利・健全な環境が確保される権利の計8つが「消費者の権利」とされています。

※注2…この部分は消費者教育において「消費者の責任」に該当する部分です。消費者には「商品や価格などの情報に疑問や関心をもつ責任・公正な取引が実現されるように主張し、行動する責任・自分の消費行動が社会(特に弱者)に与える影響を自覚する責任・自分の消費行動が環境に与える影響を自覚する責任・消費者として団結し、連帯する責任」があるとされています。

3回めの授業~悪質商法について~

 さまざまな悪質商法がはこびる現代、教科書や資料集にも悪質商法の事例が記載されているので、それを元に、授業で説明していきます。「キャッチセールス」「アポイントメント・セールス」「霊感商法」「マルチ商法」「かたり商法」など…。
 こういった悪質商法に対して、どのような対処をしたらよいか、生徒自身に下調べをしてきてもらうようにしているそうです。生徒たちは、商品を購入後、一定の期間内に契約を解除できる「クーリング・オフ制度」をまず探してきます。それについて説明した後、消費生活センターなどへ相談するという方法もあると伝えていきます。

(2)中学1年生 地理~公正な社会のために~

 地理の授業では、アフリカの地域の中で「植民地時代にヨーロッパ人によって開かれた大農園・プランテーション」について触れる記載が教科書に出てきます。そのページの資料写真に、アフリカの子どもがチョコレートの原料となるカカオの生産に携わっているシーンが記載されています。
 ここで、平野先生は「フェアトレード」の説明を補足していると言います。授業時間数はほんの10分程度ですが、消費者教育という観点からは、重要なポイントになってきます。授業の流れは以下の通りです。

 カカオの生産に子どもが従事していることについて、生徒からは「貧しいから」「子どもも働かないとお金がないから」といった意見が出てきます。カカオはチョコレートに加工されますが、現地の人々は食べたことがないことを伝えていきます。チョコレートを欲する先進国は、安い賃金で現地の人々を働かせています。労働者にきちんとした対価を払うことができる社会づくりが必要。ここで「フェアトレード」(=公平な取引)の説明もしていきます。

 「フェアトレード」については、3年生の公民における「貿易」の部分でも、再度、少し触れるようにしているそうです。

3.まとめ

 教科書に出てくる内容に加えて、生徒自身に考えさせる時間を設けているのが原野谷中の授業です。トラブル解決や法律、制度を学び、いざという時に相談できる機関を中学時代から伝えていくことで、トラブル対応能力を養っていくことができます。
 一般的に、教科学習では時間が限られているため、消費者教育としてまとまった時間をとることが難しいという声を聞くことがあります。平野先生のフェアトレードのケースのように、関連する内容の時に「消費者」としての見方・考え方に触れていくことは、とても有効な導入方法でしょう。