1.はじめに
富士市立高等学校(以下、富士市立高)は、2011年に富士市立吉原商業高等学校から富士市立高等学校と改称したことに伴い、総合探究科(各学年3クラス)・ビジネス探究科(各学年2クラス)・スポーツ探究科(各学年1クラス)を設置した、特色ある学校です。
特に、小学校・中学校の「総合的な学習の時間」で身につけた能力をさらに高めていく「探究学習」の時間を3年間設け、社会で求められる力(コミュニケーション能力、課題発見・解決力、協調性)やキャリアプランニング能力の育成を目指しています。
2.富士市立高等学校における消費者教育の取り組み
(1)探究学習でディベートを実施
1年生の9月~3月には週2時間ある「探究学習(総合的な学習の時間)」で、ディベートを行っています。テーマは学年全体で提示され、4人のチームに分かれて進めていきます。
平成25年度のテーマ:「消費税8%」日本は、消費税率を上げるべきである
平成26年度のテーマ:「原子力発電」を廃止すべきである
「憲法9条」を改正すべきである
各チームは、まずはパソコン室や図書館などで情報集めからスタートします。この情報集めに大部分の時間を割くといいます。
賛成か反対か、ジャッジ(2チーム)に分かれ、ディベートを行います。ジャッジは、フローシートを作成し、ディベートの流れも記載していきます。
一度、途中でプレ大会をはさみ、実際にディベートをして自分たちが調べた情報を精査していきます。その後、再び情報集めを行い、本大会へと続きます。
多様な意見と出会い、考え方、対応を学びます。また、相手の立場になって物事を考える力を養うことができます。感情論にならないよう、根拠となるデータや内容を自分たちで調べ上げ、筋道を立てて考えていきます。テーマはその時々に話題となっているものを取り上げています。消費者市民教育において必要な「倫理的市民」(※注1)や「政治的市民」(※注2)の能力を養うのに、ディベートは大変適した取り組みと考えられます。
※注1 「倫理的市民」…消費者教育の中で身に付けたい能力の一つで、経済的市民として選択を行うために必要な、環境問題や社会貢献等を倫理的(エシカル)な問題について理解し、ライフスタイルの見直しができる能力のこと。
※注2 「政治的市民」…これも消費者教育の中で身に付けたい能力の一つで、選挙やパブリックコメント等を通じて、消費者としての意見を表明し、政治的にアクション(社会参加)をすることができる能力のこと。(参考・出典:公益財団法人 消費者教育支援センター発行「先生のための消費者市民教育ガイド~公正で持続可能な社会を目指して~」2013年6月)
(2)部活動で実店舗「吉商本舗」を運営
「吉商本舗」は、富士市立高のビジネス部とNPO東海道・吉原宿の共同で運営する2004年7月に開店した、常設店です。
こちらではビジネス部の生徒たちが実際に商品開発をした下記の商品を販売しています。
パッケージに使える料理のイラストを配することで、さまざまな料理へ使えることをわかりやすく提案
カレー革命
すでに卒業していった先輩たちが作った商品。ハヤシライスとカレーをミックスした新しい味のレトルトカレー。
新・吉商本ぽん津
平成26年12月に発売。先輩たちが開発した「吉商本ぽん津」(※注3)に改良を加えた味付ぽんず。小さい子どもに味を楽しんでもらいたいと甘みを少し強めに改良。
「新・吉商本ぽん津」は、現在の在校生が部活動の中で商品開発を行ったものです。
地元特産の柑橘類「だいだい」を使用し、富士市立高からも近い地元企業「福泉産業」(みりんで知られる会社)の協力を得て、発売。試作を重ね、自分たちの意見だけに止まらないよう、学校職員からも意見を集めたそうです。「地元の特産を活かし、地元企業で製造する」といった、街を元気にしたいという想いも込められています。
実際に商品開発をすることにより、生産者の目線と消費者の目線、両方から多角的に物事を捉えていく考え方を養うことが期待できます。
全国産業教育フェアでの発表の様子。地元吉原商店街のレストランの方に協力してもらい、「カレー革命」と「吉商本ぽん津」を使用したピロシキを開発を行った
※注3 吉商本ぽん津…富士市立高の前身である富士市立吉原商業高等学校の商業ビジネス部が運営する「吉商本舗」と、富士市立須津中学校の有志が協力して開発。商品名の「吉商本ぽん津」には、両校のコラボレーション商品であることが込められている。
(3)消費者目線での商品開発の授業
部活動での取り組みに加えて、授業で行っている商品開発をご紹介します。
授業では、Microsoft PowerPointを使用し、資料作成からプレゼンテーション能力を高める内容も。豊かな発想感覚を身に付けることができるので、仕事でも活かせる力になっているそうです。
その中でも注目すべきは、企業や大学の「ビジネスプランコンテスト」へ参加する取り組みです。
平成25年度・平成26年度「日本政策金融公庫開催 高校生ビジネスプラン」への参加
ビジネス探究科3年生の「マーケティング演習」の授業の中で実施。ほぼ1年間を通して取り組んでいます。
平成26年度は、日本政策金融公庫の担当者が講師として来校し、商品の開発や発送方法、お金のことなど商品開発に必要な講義を4時間に渡り実施して下さったそうです。
このプロジェクトには、全国から1700チームもの応募があるそう。最終8組に残ると、東京大学で発表できるということもあり、先生も生徒も気合が入ります。富士市立高からは17チームが参加しましたが、惜しくも最終には残れませんでした。1チームはベスト100に残ったそうです。
<生徒が考えたプランの例>
富士山で販売する木のプレミアムハガキ
世界遺産となり、今や脚光を浴び続ける「富士山」。外国人観光客も多い中、木の廃材を活かしたプレミアムハガキを作り、富士山で販売してはどうかというプラン。
地元の木材組合や、ダンボールや住宅を手がける富士木材株式会社へリサーチを重ね、各所へ電話したりアンケートをとったり、消費者目線を活かした商品を企画。
ペットボトルの蓋、改良案
従来のペットボトルは、子どもやお年寄りには滑りやすく力が入れにくく、開けづらい。そこで三角形にしたら誰でも開けやすくなるのではというプラン。
コンテストへ参加するにあたり、授業を担当する遠藤先生は、「持続可能な開発であること。地域の活性化と社会貢献につながること。産学協同開発であること」といった条件を設けたそうです。いわゆる「一発もの」と呼ばれる一時期にしか売れないものではなく、「持続可能性があり、地域の活性化にもつながり、買い手も売り手もWin-Winであることが理想」と遠藤先生は語ります。この考え方は「公正で持続可能な社会の実現」を目指す消費者教育においても重要な視点です。
上記のコンテスト以外にも、「マーケテイング実務」の授業の中で、千葉商科大学が主催する地域活性のためのコンテストや、常葉大学のビジネスプランコンテストの「街おこし部門」などにも授業を通して生徒個人で参加しています。
常葉大学のビジネスプランコンテストへの参加
3.まとめ
富士市立高のビジネス探究科では、1年次に地元や首都圏の企業を訪問し、企業経営やマーケティング戦略などを学ぶ企業研究の場を設けています。また、2年次には台湾を訪問し、現地企業や日系企業での経営セミナーをはじめ、台北市街での研修も行っています。
1年、2年次とそれぞれ、物事を多角的に捉え、考えることができる能力の素地を作ってきているので、3年次にはその力を存分に発揮し、「公正で持続可能な社会の実現」といった視点をもって、消費者・生産者の目線で社会参加ができるようになっているようです。