消費者教育の事例紹介

教材モデル展開事例

■学校名:掛川市立原野谷中学校 ■レポート日:平成27年3月11日

モデル授業例

「消費者市民社会とは ─消費の社会的な意味─」

出前講座 講師:公益財団法人 消費者教育支援センター 研究員 山地理恵氏

対  象:
中学3年生
該当領域:
商品の選択と購入/消費者の権利と責任/環境に配慮した生活
時  間:
50分授業
使用教材:
DVD教材「知り・考える消費者市民社会」、「実習ノート」
授業目標:
(1)消費生活のしくみがわかり、生活情報を読み取る力を養う
(2)消費者市民としての権利と責任を果たす行動について理解する
(3)消費者市民社会の構築のために、環境への影響を考えた消費行動を選択する

 雪がパラつくほどの寒い3月11日。掛川市立原野谷中学校の社会科の平野友紀先生の協力を得て、DVD教材「知り・考える消費者市民社会」と「実習ノート」を活用したモデル授業が行われました。講師には、公益財団法人 消費者教育支援センター 研究員 山地 理恵氏を迎え、「消費者市民社会とは‐消費の社会的な意味‐」と題して出前講座を実施していただきました。

1. 導入[所要時間:5分]

本物 VS ニセモノ、あなたの選択はどっち?
指導のポイント・学習のねらい

具体例を提示し、テーマを身近に感じさせる

山地氏が簡単な自己紹介を済ませたあと、早速授業スタート。
まずは、某有名ブランドバッグを取り出し、「一つは本物、一つはニセモノ。みんなどっちが本物だと思う?」と問いかけます。どちらもとてもそっくりで、見分けがつきません。

生徒の反応を確認した山地氏は「答えはこちら。とても精巧に似せて作られているね。手に取って確認できない、例えばインターネットサイト上で、「今日だけ特別価格で安いです!」と書かれていたら、ニセモノとは思わず買っちゃう人もいるかもしれないね」と話していきます。
次に二つのDVDを取り出します。一つは正規品のパッケージ。もう片方は明らかにニセモノと分かるコピーDVDです。「次は本物かニセモノか、見分けがつく場合。ニセモノは多くの場合、激安です。ニセモノと分かっていても、すごく安いし、自分で見るだけだし…と買ってしまうと、どうなるだろう?今日は、自分の買い物が社会にどうつながっていくのか、を考える授業です」と続けます。

2. 実習(2)[所要時間:8分]

「個人」と「社会」それぞれの視点で消費行動を考える
指導のポイント・学習のねらい

各自でシート記入後、着席のまま、隣・前後の生徒(計4人程度)でグループになり、他者の意見を取り入れつつ、シートを完成させる

実習ノートの実習(2)
ワークシートを配布します。各自で、本物のDVDを買うことと、ニセモノのDVDを買うことの長所や短所を思いつく限り記入していきます。時間は約1分間。
生徒から次のような意見が出てきました。

本物とニセモノのDVDを買うことについての生徒からの意見
「本物のDVDを買う」長所

著作権を守って作られているため安心して観られる 中身に信頼性がある 映像がきれい 確実に観られる 責任の所在がはっきりしている 本当の内容が観られる 欠陥があるとき返品できる 後ろめたくない 最後まで観られる それを作った映像会社にお金を払うことができる


「本物のDVDを買う」短所

高い いらない情報も入っている 説明が多い 何回も観るならいいが1度だけなら高い買い物になる


「ニセモノのDVDを買う」長所

安い 本物が手に入らなくても似た物が手に入る 見ただけではニセモノには見えないので周囲に自慢できる


「ニセモノのDVDを買う」短所

本物かわからない 信用できない 著作権が守られない 罪悪感がある すぐに壊れそう 違法 言葉が英語だったりする 製造元がわからない 返品できない 犯罪だから捕まるかも 中身が自分の観たいものではないかもしれない ケースがない 飾られない 犯罪に巻き込まれるかも ニセモノを作った人に加担したことになる

各自の視点を書き終えたタイミングで、隣同士で見せ合います。その後、前後で4人程度のグループになり、お互いの視点や意見を取り入れつつ、シートを埋めていきます。
グループでの話合いでは、自分が書いた視点を相手に説明するなど、活発な意見交換が見られました。山地氏は巡回し、グループ内の話合いを見守ります。

3. 意見発表[所要時間:2分]

指導のポイント・学習のねらい

消費者市民の考え方が表れている意見を探し、発表してもらうと良い

グループでの発言内容を教室全体で共有するため、指名して発表してもらいます。
「本物を買った場合は『欠陥があるとき返品できる』『それを作った映像会社にお金を払うことができる』といった視点が出ているね。ニセモノを買った場合『製造元がわからない』『ニセモノを作った人に加担したことになる』といった視点を書いているグループもいるね」。

生徒の反応を確認後、「『個人の視点』の部分は書けたけど、『社会の視点』の欄は難しかった人も多いよね。書けない欄もあったみたい。では、『社会の視点』とは、具体的にどういうことか、DVDで確認してみよう」。

4. DVD視聴[所要時間:4分20秒]

「2章:消費の社会的意味」
指導のポイント・学習のねらい

買い物はお金の投票、という視点から、生徒個人の選択が社会に与える影響に気付く

ここでDVDの「2章:消費の社会的意味」を視聴します。

どのような商品を選択し、消費するかということは個人の選択ですが、これには社会的な意味合いも含まれます。多くの消費者が選択してくれれば、企業は利益を出し、それを作る人の生活が支えられ、そしてより良い商品が生み出されていきます。しかし逆に消費者に選ばれず、売れなければその商品はなくなり、その企業は倒産してしまうこともあります。
つまり、買い物をするということは、企業に「お金の投票」をしていると言えます。普段の何気ない買い物で、消費者である私たちが何を選択するかによって、市場に大きな影響を与えているのです。

ニセモノと知りつつ、安さに惹かれて買う人が存在する限り、ニセモノを売ろうとする人は次々と現れてきてしまいます。ニセモノを売ることで得たお金は、犯罪組織の資金源になることもあるので、ニセモノを買うことは、間接的に犯罪に加担することになります。
商品やサービスの自由な選択は、消費者に与えられた「権利」ですが、これは逆に自分の選択に対する「責任」も併せ持つことになります。
自分だけでなく、社会にとって望ましい商品を選択し、お金を投票していくことが消費者の責任というわけです。

5. DVD視聴[所要時間:2分40秒]

「3章:大きな力を持つ消費者の選択」
指導のポイント・学習のねらい

消費者市民としての、商品やサービスの選択の仕方について、身近な物で考える。

続けてDVDの「3章:大きな力を持つ消費者の選択」を視聴します。

みんなの身近にあるチョコレート。このチョコレートの原料であるカカオ豆は、主に西アフリカで生産されています。このカカオ豆の生産者の多くは貧しく、幼い子どもたちでも学校に行けず、児童労働に従事している実情があります。
こうした問題に対して考えられたのが「フェアトレード」というものです。
開発途上国などの弱い立場に置かれた生産者と、先進国の消費者との間で、公平な(=フェア)取引(=トレード)を行うという活動です。
「国際フェアトレード認証ラベル」がついている商品を選んで消費することで、生産者や労働者の生活を支えることも、消費者として良い選択になります。

地球環境にやさしい消費を選択することも、消費者市民としての考え方です。
社会的な意味を考えた消費者として、使い捨てでなく長く使えるものや、詰め替え、リサイクルできるものを選択することで、企業もそういった商品を開発しやすくなります。
また、時には「消費(購入)しない」という選択も重要です。
環境を考えた商品やサービスを選択する消費者を「グリーンコンシューマー」と言います。

6. フェアトレード・グリーンコンシューマーについて説明する[所要時間:2分40秒]

指導のポイント・学習のねらい

映像教材及び教科書の該当箇所を提示し、「フェアトレード」「グリーンコンシューマー」の概念を理解する。

「社会の視点で考える消費者として、2つの大切なキーワードが出てきたよ。わかる人、いるかな?」と山地氏が問いかけます。
生徒から、「グリーンコンシューマー」と「フェアトレード」という2つのキーワードが出てきます。

キーワードとして、山地氏が板書します。
「一つ目は『グリーンコンシューマー』。『グリーン』は環境という意味、『コンシューマー』は消費者という意味だよ。みんなも消費者として、お金を払って商品を買ったりサービスを受けたりするよね。その時、環境のことを考えている人、グリーンコンシューマーはこの中にいるかな?」
手を挙げた生徒はいません。
「では、お店で「レジ袋はいりますか?」と聞かれたことがある人は?」
ほぼ全員が手を挙げます。
「では、「いりません」とそのレジ袋を断ったことがある人は?」
半数以上が手をそのまま挙げています。

「レジ袋が不要な時、『いらない』と言えている人が沢山いるね。これも立派なグリーンコンシューマーだよ。他に、今の自分にできること・もうしていることは何かな?」
生徒から、環境に配慮した消費行動の具体例が次々と出てきます。聞きなれない言葉の「グリーンコンシューマー」が、実は身近な行動から始まることに気付いた様子です。

「では、もう一つのキーワードの『フェアトレード』。『フェア』は公平なという意味、『トレード』は取引という意味。(社会科で使っている地図帳を取り出し、西アフリカの場所を掲示します。チョコレートの背景に児童労働があること、フェアトレードのしくみについて説明します)

フェアトレードのチョコレートを実際に生徒たちに見せます。
中には「インターネットで見たことある」という生徒も。しかし、多くの生徒は初めて見たようです。フェアトレードという言葉自体を初めて聞いた、と答える生徒もいます。

原野谷中学校の社会科の平野先生は、1年生の地理の授業で、アフリカの国を勉強する時、「フェアトレード」のことに少しだけ触れると言います。また、3年生の公民の授業で、貿易を勉強する際にも、再度「フェアトレード」に少し触れると言います。

山地氏は、フェアトレードは平野先生の社会科の授業でも出てきていること、みんなが使っている家庭科の教科書にも、説明されているページがあることを伝え、記憶をうながします。

「フェアトレード、実は社会科でも学んでいたのだけれど、みんなにとってあまり身近ではなかったね。それはどうしてだろう?」「実際にフェアトレードの商品を選ぶこと、というのは選択肢のひとつ。でも、近くに売ってなかったりしたら、難しい場合もあるよね。自分たちの消費行動を見つめ直して、それ以外に出来ることはあるかな?」と問いかけ、DVDで確認します。

7. DVD視聴[所要時間:2分50秒]

「5章:消費者市民社会を目指して」
指導のポイント・学習のねらい

消費者市民社会とはなにか、キーワードに注意して視聴する

消費(商品)に対して、批判的な目を持ち、意見を言うことはとても重要です。
現代社会は便利なものであふれています。それは企業の努力はもちろん、消費者の声が商品やサービスの質に反映されることで、更に良いものが編み出された結果です。
たとえば、ペットボトルのくぼみや指はさみ防止ドア、ヨーグルトのふた、肌着の表示などは、消費者の意見で開発されたものが数多くあります。
また、不具合だけでなく、気に入った商品は、使った感想を企業に伝え、その商品を応援することも大切なことです。商品やサービスの質を向上させるには、消費者である自分自身が、声を上げて意見を伝えることが必要なのです。

私たちが「消費者市民」になり、「消費者市民社会」を実現するためには、一人ひとりが自分のことだけでなく、周囲の人々、社会のこと、そして未来のことなど、大きな視野を持って行動していくことが大切です。
自分が持っている「権利」と「責任」を知って、選んで行動する必要があります。

8. 消費者市民の考え方を確認する[所要時間:5分]

指導のポイント・学習のねらい

消費者の声で改良されたヨーグルトやペットボトル等の実物を提示し、消費者市民として自分たちができることを考える

DVDの視聴のあと、山地氏はこう続けます。「これまでのDVDで、消費者が持っている『権利』と『責任』という言葉が出てきたね。社会科や家庭科の授業でも学んだ内容だけど、覚えているかな?それと、「消費者市民」という新しいキーワードが出てきたね。自分がどのような商品を選びたいか、自分のどのような行動や選択を社会につなげていくか、具体的に考えてみよう」。

消費者の意見を企業に伝えることで、さらに良いものが生み出された事例として、「持ちやすさに配慮したくぼみをつけた2Lペットボトル」を、社会的な視点を持った消費者市民としての行動事例として、県内の大学生サークルが、フェアトレードの商品を扱うお店を紹介した「フェアトレードに出会えるマップ@しずおか」を、実例として掲示します。
実際に生徒に見せることで、より身近に感じてもらい理解度を深めます。

9. 消費者市民社会のために、自分にできることを考える
[所要時間:10分]

指導のポイント・学習のねらい

実習(2)で作ったグループで話し合う。時間に余裕があれば、実際に企業に手紙やメールをだすことを想定した実習を行う

これまでの授業を振り返りながら「消費者市民として、15歳の自分たちに何ができるだろうか?」と生徒に問いかけます。実習ノートのメモ欄に記入させると、生徒から次のような意見が出てきました。

消費者市民社会のために自分にできることについて。生徒からの意見
グリーンコンシューマーについて
  • 普段、レジ袋をもらわないようにしているので、それがグリーンコンシューマーになるのかなと思った
  • 使わないコンセントを抜いたり、公共交通機関を使うなど、少しの配慮でも多くの人が心がければ環境はよくなっていくと思う
  • 3Rをできるだけ活用したり、丈夫な物を買うなどして、消費者として環境によいことをしていきたい
  • 長持ちできるものを選び、大切に使うことが大事。長持ちするものは必然的に品質のよいものを選ぶことになり、そのような会社に資金を与え、よりよい物を開発できる可能性が増える
  • 条例などでエコバッグの使用を推進したら、消費者の環境への思考ができるのでは

フェアトレードについて
  • チョコが好きなので、より美味しく食べられる選択をしたいと思った
  • フェアトレードという言葉を初めて知った。知っていたら買うと思うけど、知らなかったら買わないと思う。まずは言葉を広めることが大切だと思う
  • フェアトレードのことをまずよく知る。お店に行ってみてどういう物を売っているかを知る
  • この辺りにもフェアトレードの商品を置いてある店があるとは知らなかった。そういう店を利用することで、もっとフェアトレードの商品や店が増えていくと思う

この授業を受けて考えたこと・自由記述
  • ニセモノの商品ばかりを買うと、本物がなくなる可能性があると聞いて怖いなと思った。本物かどうかを見極めながら消費したいと思った
  • 買う前に考え、消費者の声を出していきたい
  • 消費者はさまざまな責任があると知り、今後はしっかり考えたい
  • ニセモノの商品が増えているのは、私たちの認識や見解が甘いからだ。安いからいいというわけではないことを、今一度きちんと考えるべきだと思う
  • 他人任せではなく、自分の意見をきちんと言ってよりよい社会を作っていきたい。まずは自分にできることから始めていきたい
  • この授業を通して、消費者があるべき姿というのが学べたので、自分も近づけるように頑張りたい

10. 学習のふりかえり[所要時間:5分]

指導のポイント・学習のねらい

消費者市民として、今の自分達にできることを、確認する

生徒が書いた「消費者市民として、今の自分にできること」の記入内容をいくつか挙げて、消費者市民としての行動は身近なことからできることを、ここまでの話に関連つけて整理し、授業を終えました。

「消費者の権利と責任」で学んだことを思い出したのか、自発的に「公民」の教科書を取り出して3Rなどの該当箇所を確認する生徒もあり、生徒が能動的に学ぼうとする姿が印象的でした。
「グリーンコンシューマー」や「フェアトレード」という言葉を知り、考え、一人ひとりが消費者市民として、周囲の人々や社会のこと、そして未来のことを考えて行動していくことの大切さを知る機会になったようです。